ジャンプ+で連載中の『アスラの沙汰』のレビュー記事です。作者は宇乃花空樹。
※多少のネタバレを含みます
あらすじ
少年アスラは、「善い行いをしなさい」という母の教えを守り善行を積む。しかし、その優しさが仇となり、酷いいじめを受けることに。そんな中、アスラは「人を地獄に落とす鍵」を謎の露店商に勧められる。いじめがエスカレートし、大切な存在を奪われ、アスラの善悪がズレはじめついに鍵を使ってしまう。その瞬間彼の倫理観は崩壊する…。
作品の魅力・ポイント
①:倫理観の崩壊が生み出す衝撃
母親の言いつけを守り善行を繰り返すも、悪人たちには何も天罰が下らない。主人公が「善」と信じていたものが、現実の残酷さによって覆されていく。悪人に天は罰を下さない、それなら僕が…。
②:人間の心の闇を容赦なく描くストーリー
いじめ、復讐、地獄といった、目を背けたくなるようなテーマを、作者は容赦なく描き出す。それらは、人間の心の奥底に潜む闇を浮き彫りにし、読者に深い問いを投げかける…。
③:独特な画力と閉鎖的な世界
地獄の描写など、作者の圧倒的な画力と独特な世界観が、読者を物語に引き込みむ。グロテスクな描写も含まれますが、それが作品のリアリティを高め、読者の心を掴んで離さない魅力がある。
まとめ・感想
『アスラの沙汰』は1話から読者にとってキツイ要素が満載だ。既に亡くなっている母親、認知気味の祖母、動物の死、過激ないじめなど。目を背けたくなるような現実を目の前にしても下らない天罰。晴れやかな空がこんなにも恨めしいと思える瞬間はないだろう。アスラが鍵を使うのは必然だったのかもしれない。
倫理観が破壊され、善と悪の基準が変わってしまったアスラを止められる人間はもういない。ただ、この物語は勧善懲悪のストーリーではない。アスラは自分の行いがどれだけおぞましいものかをいつか気づく時が来る。その時の彼の選択を見届けるまではこの作品から目が離せない。